2022年4月から、年金改正により年金の繰上げ受給・繰下げ受給の制度が変わります。
年金は、個々の加入状況、受け取る際の家族構成などそれぞれ違いがあります。
そのため、繰上げ、繰下げを選択する際も、みんながやっているからというのではなく、自分の老後の過ごし方、働き方を踏まえて、計画的に考えていきたいものです。
今回は、年金改正による年金の繰上げ受給・繰下げ受給についてまとめました。
2022年4月から繰上げ受給・繰下げ受給が変わる
老齢年金は原則65歳から受給できます。
その際、60歳~64歳11か月の間、1カ月単位で繰り上げることができます。
65歳よりも早く年金を受け取ることを繰上げ受給といいます。
一方、66歳~70歳までの間、1ヶ月単位で、繰下げることができます。
65歳よりも受け取りを遅らせて年金を受け取ることを繰下げ受給といいます。
2022年4月から繰上げ受給・繰下げ受給で2点改正があります。
繰上げの減額率が0.5%から0.4%になる
これまでは、年金を繰上げした場合は65歳から受け取ることになる年金額よりも1ヶ月あたり0.5%少なくなり、繰下げした場合は1ヶ月あたり0.7%多くなるしくみでした。
2022年4月からは、繰上げの減額率が0.5%から0.4%になります。
65歳から支給される老齢基礎年金を年額78万円(月額65,000円)として、60歳で繰上げ受給をした場合、改正によってどのぐらい変わるのでしょうか。
老齢基礎年金を60歳に繰上げて受給する場合で計算してみます。
2022年3月まで 減額率0.5%×60ヶ月=30%(受取りは70%)
年金額78万円×70%=546,000円(月額45,500円)
2022年4月から 減額率0.4%×60ヶ月=24%(受取りは76%)
年金額78万円×76%=592,800円(月額49,400円)
年間46,800円、月額3,900円金額が多くなります。
この改正後の繰上げが対象となるのは、1962年4月2日以降に生まれた人からです。
繰下げ受給の上限が70歳から75歳に引き上げられる
これまでは、年金の繰下げ受給は、今までは70歳が上限でした。
しかし、2022年4月から75歳まで繰下げ受給ができるようになります。
繰下げ受給の場合、1ヶ月繰下げるごとに0.7%増額される点は変わりません。
65歳から支給される老齢基礎年金を年額78万円(月額65,000円)として、70歳、75歳まで繰下げ受給をした場合、どのぐらい変わるのでしょうか。
70歳まで繰下げ 増額率0.7%×60ヶ月=42%(受取りは142%)
年金額78万円×142%=1,107,600円(月額92,300円)
75歳まで繰下げ 増額率0.7%×120ヶ月=84%(受取りは184%)
年金額78万円×184%=1,435,200円(月額119,600円)
改正後の繰下げが対象となるのは、1952年4月以降に生まれた人からです。
年金の繰上げ受給・繰下げ受給によって、将来もらえる年金額が変わります。
しかし、繰上げ受給・繰下げ受給の注意点がありますので、紹介します。
繰上げ受給
年金を繰上げ受給する際の注意点について紹介します。
一生涯減額されたままとなる
年金を繰上げ請求した後は、取り消しや変更などはできません。
申請した時期の減額率に応じて、65歳時点で受け取ったときよりも少ない年金が生涯支給されることになります。
寡婦年金が受け取れない
寡婦年金とは、国民年金保険料を10年以上納付し、婚姻期間が10年以上ある夫が死亡した場合に、その妻が60~65歳まで受給できる年金です。
老齢基礎年金を繰上げ受給した妻は、寡婦年金を受け取ることができません。
寡婦年金を受給している妻が老齢基礎年金の繰上げ請求をすると、寡婦年金は受け取れなくなります。
障害基礎年金が受け取れない
老齢基礎年金を繰上げ受給したあとに所定の障害状態になった場合、原則として障害基礎年金が受け取れません。
繰上げ受給は、請求をした時点で65歳になっていなくても「65歳に達している」とみなします。
一方、障害基礎年金は原則として「65歳未満」が対象なので、受け取れなくなっています。
国民年金の任意加入ができない
将来、老齢基礎年金を満額受給したいと思うのであれば、国民年金保険料を40年間(480ヶ月)支払う必要があります。
60歳時点でまだ40年に達していない場合は、60歳以降に国民年金の任意加入をすることで、加入期間を増やすことができます。
さらに年金の受給額を増やすことができます。
しかし、老齢基礎年金を繰上げ申請すると、任意加入できなくなります。
また、保険料免除や納付猶予の追納もできなくなります。
繰下げ受給
年金を繰下げ受給する際の注意点について紹介します。
特別支給の老齢厚生年金は繰下げできない
1961年(昭和36年)4月1日以前に生まれた男性、1966年(昭和41年)4月1日以前に生まれた女性は、老齢基礎年金の受給資格期間があること、厚生年金保険などに1年以上加入していたことなどの要件を満たすことで、60歳から64歳までの間に特別支給の老齢厚生年金が受け取れます。
この特別支給の老齢厚生年金には、繰下げ制度そのものがないため、繰下げ受給ができません。
老齢厚生年金を繰下げると加給年金がもらえない場合がある
加給年金とは、厚生年金に20年以上加入があり、その被保険者が65歳に到達した時点で、生計を維持している65歳未満の配偶者、18歳未満などの子どもがいる場合に支給される年金です。
加給年金はベースとなる老齢厚生年金にプラスして支払われる手当のようなものです。
そのため、ベースとなる老齢厚生年金が繰下げで増額したとしても、それに伴い加給年金も増えるものではありません。
また、加給年金は、扶養家族の年齢が影響する年金です。
もし、老齢厚生年金を繰下げることで、子どもの年齢や配偶者の年齢が該当から外れてしまえば、もらえなくなることもあります。
老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げは66歳から
老齢基礎年金、老齢厚生年金どちらも、65歳から年金を受け取る権利が発生している場合、1年後の66歳から繰下げの申請をすることができます。
繰下げ受給は65歳以降、1ヶ月単位で0.7%ずつ増額しますが、実際に増えた年金が受け取れるのは66歳から(0.7%×12ヶ月=8.4%増)となります。
65歳1カ月で年金を請求しても65歳にもらうことができないので注意しましょう。
税金や社会保険料が増える場合がある
65歳から受け取れる年金の金額によりますが、老齢年金が一定以上であれば、雑所得として申告が必要になります。
年金の繰下げにより所得が増えれば、それに伴い、負担する国民健康保険料や介護保険料、所得税などが増加します。
税金は、サラリーマンと同様に所得が多ければ多いほど負担が大きくなります。
医療費負担が増える可能性がある
まだ時期が未定となっておりますが、2022年10月から2023年3月の間に75歳以上の後期高齢者の窓口負担を一定の所得に応じて、2割負担、3割負担に引き上げます。
現役並みの所得(単身世帯では年収383万円以上)のある人は3割、単身世帯で年収200万円以上、夫婦世帯で年収計320万円以上の場合は2割負担に引き上げるということです。
年金の繰下げによって収入は上がりますが、医療費負担が増えてくる可能性があります。
年金の繰上げ受給・繰上げ受給者の割合
あるデータによると2020年の年金の繰上げ受給・繰上げ受給者の割合
老齢基礎年金は、繰上げ11.7%、65歳86.7%、繰下げ1.6%となっています。
老齢厚生年金は、繰上げ0.5%、65歳98.5%、繰下げ1%となっています。
老齢基礎年金こそ多少繰上げ受給の方がいますが、老齢厚生年金はほとんどが65歳からの受給となっています。
トータルでは、ほとんどの人が、65歳で年金を受け取っています。
繰下げしているひとは数少ないですが、昔と比べると増えてきています。
2021年4月に施行された高齢者雇用安定法では、70歳までの雇用が努力義務となり、シニアの方々の雇用環境が整ってきました。
そのため、今後、年金が少ないから繰下げ受給にして、その間までに会社で働く人が増えてくるかもしれません。
シニアの働き方は、今現在の経済状況に不安を感じ、少しでも不安を少なくするために、繰下げをして、今後の老後資金の準備をしていきましょう。
まとめ
人生100年時代と言われており、老後の資金準備はどうしたらよいかなと悩んで考え込むこともあるかもしれません。
そんなときは、年金の繰下げが有力な選択肢となります。
年金の繰下げ受給するまでの間、会社で働いて、少しでも経済状況をしていきたいところです。
65歳まで待てない、働くことが難しいと思ったら、繰上げ受給を検討してもいいでしょう。
繰上げ受給、繰下げ受給は、注意点があったりするので、考えてみると間の65歳に年金受け取った方がいいかと思うこともあるかもしれません。
自分の老後の過ごし方、働き方を考えて、老後安心した生活が送れるように今から計画的に準備していきましょう。